“心と記憶に残る”唯一無二のロケ弁を——『細川出飯社』が語る『画廊弁当』(トンテキバターコーン弁当)誕生秘話とこれからの挑戦

2025年「第2回 日本ロケ弁大賞」にて「金賞」「広告/映像業界賞」をW受賞したのは、
『細川出飯社』の『画廊弁当(トンテキバターコーン弁当)』。そのユニークなネーミングセンスとパッケージのアート性に、“どんなお弁当なんだろう?”と興味を惹かれた方も多いのではないでしょうか。今回は、受賞の裏側やお弁当に込めた想い、そして今後の展望について代表の細川芙美さんにたっぷりとお話を伺いました。

「料理」は自己表現。フードデザイナーとしての原点

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『細川出飯社』の代表を務める細川さんは、調理師学校を卒業後、星付きのフランス料理の名店で修業を積んでいました。しかし現場でのルーティンや将来の見えなさに、葛藤を抱えることも。「もっと、自分らしく働く道はないか」――そう考えるようになったと語ります。

そんなある日“ケータリング”という形であれば、お店を持たずに起業ができる可能性がある事に気付きます。はじめは右も左も分からない状態だったため、ケータリングをやっている料理家さんのアシスタントとして働くことに。とはいえ、アシスタントの仕事だけでは生活がままならず、時間に縛られない働き方がしたいという思いで単発のアルバイトもはじめます。転機となったのは、アルバイト先の1つであった広告代理店の社長からかけられたひとこと。「お弁当、作ってみない?」――そのひとことから、『細川出飯社』の物語は動き出しました。最初は月1回の注文から始まり、それが週1、週3と徐々に広がっていきます。やがてTV番組「セブンルール」でも紹介され、その名は一気に知れ渡りました。

「イラスト」から逆算する弁当づくり

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『画廊弁当』の開発において印象的だったのは、「まずアート作品から考え、お弁当を構成していく」という独特な手法です。インスタグラムなどのSNSを検索したり、細川さん自ら画廊へ出向き描いてほしい作家さんを発掘して、直接アプローチ。その作風から「どんなお弁当が合いそうか、ネーミングはどうするか」など逆算して形にしていくスタイルだと言います。

「エネゴリくん」を生んだ久保雅由氏にご提供いただいた『画廊弁当』のイラストを見て、“この太いラインにはこの食材を” “この世界観にはこの味を”と、細川さんは料理とデザインを結びつけていきました。ピーマンの輪郭やトンテキの厚みと陰影、炙ったネギのラインなど、アートの構成を料理で再現するという、まさにフードデザインの真骨頂です。

食感の面でも、バターコーンのプチプチと遊び心溢れる食感。蛇腹切りを施した香の物のザクザク感といった変化を組み込むなど、五感を刺激する仕掛けが随所に散りばめられています。主役のトンテキは真空調理によって柔らかく舌の上でとろけるように仕上げられ、見た目と味の両面でお客様の心をくすぐる作品となりました。工夫と計算が織り交ざった、クリエイティブな試行錯誤が詰まった一品です。

細やかな盛り付けと道具、調味料へのこだわり

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盛り付けは「まるで芸術品」と表現されるほど美しく緻密。トンテキの厚みや陰影、丸のままのピーマンの輪郭を活かす盛り付け。蛇腹切りの香の物に、ネギの繊維に沿って線を炙る細かさ。こうした調理技法や盛り付けは、時間がかかるうえに個数が増えるほど手間が大きくなる仕事です。それでも「外せないひと手間」として、細川さんは一切の妥協をしません。100食を超える注文でも「これを抜いたら成立しない」と断言。

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しかし、効率化も忘れてはいません。例えばバンコクで購入した軽く短い独特な形状の包丁を使うことで調理時間を半減させるなど、手間と効率を両立させる工夫も欠かしません。手にフィットする小ぶりな調理道具が生産性と仕上がりの両方を高める——そんな細川さんの料理哲学が伝わってきました。「包丁一つで品質が180度変わる」と語る言葉からも道具への情熱が感じられます。

調味料にも強いこだわりがあります。特に塩に関してはイギリスや日本など産地だけでなく、つくる料理によって塩の目の荒さや甘みの違い。ミネラル濃度の違いでも使い分けているといいます。

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「選ばれ続ける存在」であるための差別化戦略

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細川出飯社が目指すのは、「ただ、おいしいだけのお弁当」ではありません。お弁当を“コミュニケーションツール”と捉え、パッケージの印象から会話が生まれるような仕掛けを意識しています。

また、自らの感性に共鳴してくれる作家とコラボすることで、「好きな人と繋がる」仕掛けも設けています。他店との差別化ではなく、「細川出飯社にしかできないよね」と言われるような唯一無二の存在になること。それこそが細川出飯社のブランド戦略であり、成功の鍵と言えるに違いありません。こうした戦略と、商品を通した細川さん自身の自己表現が召しあがる方々の共感を呼び、支持されています。

細川出飯社の未来

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第2回 日本ロケ弁大賞受賞後の変化は多く、注文数の増加はもちろんですが、最も変化したのは細川さん自身の「心の在り方」だといいます。

「これまでは“お洒落で可愛いお弁当”と評価されることが多かったです。でも今回の受賞で、積み重ねてきた歩みが評価されたと実感できました」。それは、フードデザイナーとしての10年間にわたる努力がひとつの形となった瞬間でもありました。

そして次なるステップとして掲げているのが、“出版社のようなお弁当屋”。画廊弁当のようにテーマを先に立て、そこから内容を構築していく“編集的なアプローチ”です。今後は、「画廊弁当」の別の展示や、「マンガ弁当」の新シリーズ。「子ども向け特集」「地域・環境テーマ」のシリーズも構想中とのこと。

“テーマが先にあって、そこからレシピや盛り付けを逆算する”という出版的プロセスを取り入れ、今後さらなるブランド化とメディア性のある展開に挑戦していく意欲を熱く語りました。

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細川出飯社のお弁当は、単なる料理を超えて「記憶に残る体験」へと昇華されています。
「お弁当を通じて、つながりが生まれますように」。そんな思いを込めてつくられた『画廊弁当』を目の前にすると、たちまち美術館のギャラリーに迷い込んだような、ドキドキワクワクした気持ちで満ち溢れます。お客様にとって“ちょっと料理が上手い友達”のような存在でいたいと語る細川さん。これからもどんな料理を生み出すのか目が離せません。

『細川出飯社』について

『細川出飯社』は、テーマ先行で企画を組み立て、編集者のように商品を構成する── この手法をロケ弁に応用した“出版社的なブランド”です。ロケ弁の提供だけでなく、2025年現在Netflixで配信されている「オフライン ラブ」では舞台となったフランス・ニースでケータリング協力をするなど、日本のみならず海外での活躍も目まぐるしく、食べたらきっとお弁当の概念が変わるはず。ぜひご賞味ください。

https://humihosokawa.com/

レストランについて

『細川出飯社』では、東京都世田谷区・代沢のアトリエにて、完全事前予約制の店舗営業も行っています。営業日は週に2〜3回、不定期でのオープンとなっており、過去に『細川出飯社』のサービスを利用したことがある方限定の特別な空間です。

この場所は、単なる「食事の提供の場」ではありません。細川さんにとって“創作の源泉”となる場所であり、お客様と対話し、反応を直に感じることで、次のロケ弁や新たなアイデアが育まれていく、いわば「食と表現のラボ」のような存在でもあります。

静かで、親密で、まるで作品に触れるようなひとときを。細川出飯社の世界観に深く触れたい方は、ぜひチェックしてみてください。

店舗情報
〒155-0032
東京都世田谷区代沢4-31-15 1A
(完全予約制|営業は週2〜3日|不定期開催)